平成27年度の税制改正大綱が発表されました。デフレ脱却を目指す政策が、税制にも反映される形となりました。
法人税減税、高齢者層から次の世代への贈与関連の優遇特例等が主な改正ですが、特に従来より予定されていました平成27年10月からの消費税10%への増税が1年半先送りになったことは、多くの方に影響のある改正となりました。
それでは、主な改正を以下順、解説します。
平成27年度の税制改正大綱が発表されました。デフレ脱却を目指す政策が、税制にも反映される形となりました。
法人税減税、高齢者層から次の世代への贈与関連の優遇特例等が主な改正ですが、特に従来より予定されていました平成27年10月からの消費税10%への増税が1年半先送りになったことは、多くの方に影響のある改正となりました。
それでは、主な改正を以下順、解説します。
過年度より利用が多かった住宅取得のための資金の贈与税の非課税特例が拡充・延長されることになりました。対象は、直系尊属からの贈与、つまり祖父母や親から、子や孫への贈与であれば適用されます。
住宅を取得する予定があり、資金の援助を受ける可能性がある場合には、この特例を上手く活用することで贈与税の負担なく贈与を受けることが可能となります。また相続時に相続財産への持ち戻しもありませんので、相続税の節税にもなり引き続き、利用が見込まれる特例となりそうです。
(1)非課税限度額の拡大
住宅用家屋取得等に係わる契約の締結期間 | 消費税の税率が10%の場合 | 左記以外の場合 | ||
---|---|---|---|---|
良質な住宅用家屋 | 左記以外の住宅用家屋 | 良質な住宅用家屋 | 左記以外の住宅用家屋 | |
(改正前)平成26年中の贈与 | - | - | 1,000万円 | 500万円 |
〜平成27年12月 | - | - | 1,500万円 | 1,000万円 |
平成28年1月〜平成28年9月 | - | - | 1,200万円 | 700万円 |
平成28年10月〜平成29年9月 | 3,000万円 | 2,500万円 | 1,200万円 | 700万円 |
平成29年10月〜平成30年9月 | 1,500万円 | 1,000万円 | 1,000万円 | 500万円 |
平成30年10月〜平成31年6月 | 1,200万円 | 700万円 | 800万円 | 300万円 |
(2)適用対象となる居住用の家屋(良質な住宅用家屋)の範囲拡大
(3)適用対象となる増改築等の範囲の拡大
一定の省エネ改修工事、バリアフリー改修工事及び給排水管又は雨水の浸入を防止する部分に係る工事の追加
平成 27 年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用。
祖父母などからの教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税特例について、平成31年3月31日まで延長されることになりました。4年の延長ということで、非常に利用者が多い人気の特例となりました。また改正前は教育資金の範囲に含まれていなかった「通学定期代や海外留学に伴う留学渡航費など」も特例適用の対象となりましたので、さらに使い勝手がよくなりそうです。特に海外留学に行く場合には、渡航費が相当額発生することが見込まれますが、この点についても対象となったことで、今後はグローバルな視点で教育のための費用を孫のために贈与してあげることが可能となります。
(1)適用期限の延長
(2)特例の対象となる「教育資金の使途」の範囲の拡大
内容 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
学校に支払う入学金・授業料・保育料など | ○ | ○ |
学校に通学するための通学定期券代 | × | ○ |
海外の学校(海外留学)に支払う入学金・授業料など | ○ | ○ |
海外留学に伴う留学渡航費など | × | ○ |
(3)金融機関への領収書等の提出の簡素化
金融機関に提出する領収書等が以下の場合に限り、領収書ではなく支払先、支払金額等の明細を記載した書類で代用することができるようになる。
【条件】
・都度の支払金額が1万円以下
・年間の合計支払金額が24万円に達するまでのもの
平成28年1月1日以後に提出する書類について適用。(※上記(3)について)
結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度が新設されました。これは先の孫への教育資金贈与特例の利用者数の拡大を受け、子や孫の結婚費用や子育て資金のための贈与であれば1000万円まで贈与税を課税しないことにするというものです。非常に適用範囲が広く解釈できる特例となりますので、孫への教育資金贈与特例と同様、多くの利用者が見込まれます。しかし、教育資金贈与とは異なり相続開始時点で使いきれていない部分については相続税の計算対象となってしまうため相続税の直接的な節税策としては多少使いづらいものになると思われます。
(1)制度内容
受贈者(20歳以上50歳未満の者)の結婚・子育て資金の支払に充てるために、その直系尊属が金銭等を拠出し、金融機関等に信託等をした場合には、1,000 万円まで、贈与税を課さないこととする。
(2)非課税限度額
受贈者1人につき1,000万円 ※但し、結婚に際して支出する費用については300万円を限度
(3)結婚・子育て資金の範囲
① 結婚に際して支出する婚礼(結婚披露を含む。)に要する費用、住居に要する費用及び引越に要する費用のうち一定のもの ② 妊娠に要する費用、出産に要する費用、子の医療費及び子の保育料のうち一定のもの
(4)残額が生じた場合の課税関係まとめ
ケース | 残額(※)の取り扱い |
---|---|
受贈者が50歳に達した場合 | 受贈者に対して 贈与税がかかる |
受贈者が死亡した場合 | 課税なし |
信託財産等の価額が零となった場合において 終了の合意があったとき |
受贈者に対して 贈与税がかかる |
期間中に贈与者が死亡した場合 | 贈与者の相続財産として 相続税の課税対象になる |
※ 残額とは、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した金額のことをいう。
(5)具体的な手続き
受贈者は、本特例の適用を受けようとする旨等を記載した非課税申告書を、金融機関を経由し受贈者の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
また、受贈者は、払い出した金銭を結婚・子育て資金の支払に充当したことを証する書類を金融機関に提出しなければならない。
平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に拠出されるものに適用。
改正前、土地の上に住宅用家屋が建っていれば固定資産税が6分の1に軽減されるという土地所有者にとっては非常に節税効果が大きい特例がありました。一方、この特例の影響で、固定資産税の増税を回避するために、住まなくなった空き家を放置したままにする土地所有者が増加し、老朽化した建物に様々なリスクが生じる等の不都合が生じるケースが多々出てきました。 このため税制改正後は、「倒壊の危険のあるような誰も住んでいない、いわゆる空き家」については固定資産税が6分の1になる軽減特例の対象から除外されることになったため注意が必要です。今後は土地の有効活用を固定資産税負担も含めて、検討していく必要が出てきそうです。
状況 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
空き地 (住宅用家屋が建っていない) |
本来の税額 (特例適用なし) |
本来の税額 (特例適用なし) |
住宅用家屋の土地 (誰かが住んでいる) |
本来の税額×1/6 ※1 | 本来の税額×1/6 ※1 |
住宅用家屋の土地 (空家:誰も住んでいない) |
本来の税額×1/6 ※1 | 本来の税額 (特例適用なし) ※2 |
※1 住宅1戸につき200㎡まで
※2 但し、"特定空家等" に指定された場合。
特定空家等とは、倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態等にある家屋等のことを言います。
(1)住宅取得等に係る特例について適用期限延長
(平成29年12月31日まで → 平成31年6月30日まで)
(2)住宅及び土地の取得に係る不動産取得税の標準税率(本則4%)を3%とする特例措置の適用期限を3年延長する。
(平成27年3月31日まで → 平成30年3月31日まで)
(3)宅地評価土地の取得に係る不動産取得税の課税標準を価格の2分の1とする特例措置の適用期限を3年延長する。
(平成27年3月31日まで → 平成30年3月31日まで)
(4)土地の売買による所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限を2年延長する。
(平成27年3月31日まで → 平成29年3月31日まで)
(5)住宅用家屋の所有権の保存登記若しくは移転登記又は住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限を2年延長する。
(平成27年3月31日まで → 平成29年3月31日まで)
(6)会社分割に伴う不動産の所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置は、適用期限の到来をもって廃止する。
(平成27年3月31日までで廃止)
海外に財産を移転する人が増加していることを受け、1億円以上の有価証券を海外に移転する際には、いったん当該有価証券に生じている含み益に所得税を課税するというものです。いわゆる「出国税」と呼ばれるもので、例えばシンガポールや香港等は、有価証券のキャピタルゲインに対して所得税が課税されません。
このため、日本に住む資産家がいったん日本国外へ有価証券を移し、その後、タックスヘイブン国で有価証券を売却し日本の譲渡所得税を回避するという節税策が増加してきたことが背景に挙げられます。
ただし、いったん国外へ移転しても5年内に売却せずに保有したまま日本に戻ってくると、出国時に支払った税金が戻ってくるという救済措置も講じられています。いずれにしましても、日本の国税庁も海外への財産流出や課税回避については昨今非常に敏感になっていますので、注意が必要です。
(1)特例の対象者
本特例は、次のイ及びロに掲げる要件を満たす居住者について、適用する。
(2)5年以内に帰国した場合は税金が還付されます!
本特例の適用を受けた者が、その国外転出の日から5年を経過する日までに帰国をした場合において、その者が当該国外転出の時において有していた有価証券等で当該国外転出の時以後引き続き有していたものについては、本特例による課税を取り消すことができる。但し、帰国の日から4か月を経過する日までに、更正の請求をしなければならない。
平成27年7月1日以後に国外転出をする場合又は同日以後の贈与、相続若しくは遺贈について適用。
従来からあったNISAに、新たに「ジュニアNISA」の開設が可能となります。祖父母や両親からの若年世代への贈与が活発に行われていますが、その贈与された資金を将来の進学や結婚時の費用のためにジュニアNISAで運用していくことが想定されています。
ただし、従来のNISAも利用者の多くは中高年世代であり、投資未経験者にはそこまで広がりを見せていないことを考えますと、ジュニアNISAの利用者数は限定的になるではないかと思います。
(1)成人向けNISAとジュニアNISAとの比較
ジュニアNISA【今回新設】 | 成人向けNISA【今回一部改訂】 | |
---|---|---|
利用可能な者の年齢 | 0才から19才 | 20才以上 |
年間投資限度額 | 80万円 | 現行:100万円 改正後:120万円(平成28年分以降) |
投資可能期間 | 平成28年1月1日〜 平成35年12月31日まで |
平成26年1月1日〜 平成35年12月31日まで |
非課税期間 | 投資した年から最長5年間 | 投資した年から最長5年間 |
払い出し | 18歳まで払い出し制限あり | 払い出しは自由 |
平成28年1月1日~平成35年12月31日。
確定申告の際に、税制改正前は一年の所得が2000万円を超えていれば財産債務の明細書を添付する必要がありましたが、改正後は、「3億円以上の財産を所有している人」と「海外へ1億円以上の譲渡所得対象財産を移転する人」が加わりました。主に高額資産家と財産の国外移転の動きを、生前から税務署で把握しておきたいという思惑が強く出た改正となりました。
(1)提出基準の見直し
(2)記載事項の見直し
(注)財産の評価については、原則として「時価」とする。ただし、「見積価額」とすることもできることとする。また、有価証券等については、取得価額の記載も要することとする。
(3)提出や記載を怠った場合はペナルティの対象に!
国外財産調書に関わる制度と同様、財産債務調書の提出の有無等により、所得税又は相続税に係る過少申告加算税等が加減算される。
平成28年1月1日以後に提出すべき財産債務調書について適用。
国民一人一人に割り当てられるマイナンバー(年金や納税情報等の管理のため)の運用が2016年以降、実施される予定ですが、このマイナンバーを金融機関の預金口座と紐づけて管理することが、銀行などに義務づけられるというものです。
マイナンバーと預金口座を連動させることで、税務署が預金者の情報を把握することが従来よりも容易になり、税務調査等を効率的に行うことを狙いとするものです。しかしながら、個人情報を政府に全て把握されることへの不信感や、個人情報の管理や漏えい等に諸種の問題やリスクがあるとも指摘されています。
マイナンバーの配布は、平成27年10月からを予定。
故郷や好きな市区町村に、自分で選択して寄付をすると、寄付額から2000円を差し引いた額が住民税と所得税から全額控除される、ふるさと納税制度が利用者数の増大を受け拡充されることになりました。寄付額が税額控除されるため、節税効果は見込めないものの、寄付の御礼に肉、魚、酒、米等のその地方自治体の特産物がもらえることもあり、特産品目当てでの利用も広がっていきそうです。都市部から地方への税収移転を促すことを目的とした制度です。
(1)ふるさと納税の利用限度額が従来の2倍に!!
※ 個人住民税の所得割額とは、前年の総所得金額から所得控除額を引いたものに住民税の税率(10%)をかけて税額控除額を差し引いたものです。
(2)確定申告不要制度の創設
確定申告を必要とする従来の申告手続について、当分の間の措置として、確定申告不要な給与所得者等が寄附を行う場合はワンストップで控除を受けられる「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を創設する。
平成27年4月1日以後の寄附に関して適用。
生命保険契約の契約者を変更する際に、税制改正前は特段の届出は必要ありませんでしたが、改正後は税務署への届出が必要となります。これは相続発生時に、相続税の課税漏れや実質的な保険料負担者の課税を適正に行うことを目的としたものです。
(1)保険会社等は、生命保険契約等について死亡による契約者変更があった場合には、死亡による契約者変更情報及び解約返戻金相当額等を記載した調書を、税務署長に提出しなければならないこととする。
(2)生命保険金等の支払調書について、保険契約の契約者変更があった場合には、保険金等の支払時の契約者の払込保険料等を記載することとする。
平成30年1月1日以後の契約者変更について適用。